ベンチャー不在の日本経済

ベンチャービジネスという問題

日本経済の今後を考えていく上でイノベーションは非常に重要です。一般に経済成長を考える上では人口、資本、技術水準の3要素が指摘されます。ここで言う技術水準と密接な関係があるのがイノベーションです。

イノベーションの担い手としてすぐに思いつくのはベンチャービジネスでしょう。イノベーションにリスクはつきものです。誰かがそのリスクを引き受けないといけません。ベンチャービジネスはまさにそのようなリスクを引き受けてくれる社会的装置です。もちろん、失敗もたくさんあるわけですが、その見返りは大きいです。まず、成功したベンチャービジネスの創業者利得は非常に大きいです。しかし、その利得は創業者個人だけに帰するものではありません。社会的意義も非常に大きいのです。何故なら、ベンチャービジネスの成功はイノベーションを通じて経済成長という利益をもたらしてくれるからです。

ところが、日本のベンチャービジネスを取り巻く環境は厳しいとよく言われます。お寒い状況だとよく言われます。これは望ましくありません。きちんと社会的にベンチャービジネスが成り立つような仕組みづくりが必要だと思います。如何にして日本のベンチャービジネスを発展させていくべきか。この問題は日本の経済成長を考える上で重要な問題だと思います。

この問題を考えていく上でまず最初に行うべきことは、現在、日本のベンチャービジネスがどうなっているのかを知ることです。そこで、この記事では数字を確認することで日本のベンチャービジネスの”今”を浮き彫りにしていきたいと思います。

日本のベンチャービジネスの姿

まず、どのような指標で日本のベンチャービジネスの現状を見ていくかという問題があります。ここでは、総務省が実施している平成 21 年度に実施された経済センサスという調査の結果を参照することにします。この調査結果から設立年度別の事業所数を確認できます。ちなみに、経済センサスは以前は事業所・企業統計調査と呼ばれていたようです。平成 21 年の調査からは経済センサスに統合されたとのことです。

ただ、この調査で分かることはある時点(この場合平成21年度)で存続している事業所の設立年度であるという点に注意が必要です。簡単に言うと倒産・消滅してしまった事業所については分からないということです。そりゃ、そうでしょう。その点は諦めるしかありません。ですが、事業所の倒産・消滅は設立年度に依存しないという仮定を置くことで、この調査結果から日本のベンチャービジネスの姿をある程度まで透かし見ることができると思います。

あと、厳密に言えば、ここで見ていくのはあくまでも開設された事業所の数だという点も一応注意してください。この指標は日本のベンチャービジネスの状況をそれなりに映し出しているとは思いますが、ベンチャービジネスの状況(なるもの)を直接見ているわけではありません。というか、そんなもの直接観察できません、多分… その点はご勘弁ください。要は、新規事業所数を見ることは即ちベンチャービジネスの状況を見ることと同じだという仮定をこの記事では置いていますよ、ということです。

では、まず、設立年度別の事業所数の構成を見てみましょう。次のようなグラフになります。

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このグラフを見る限り、各設立年度グループ(5 年で 1 グループにしてあります)について、設立された事業所の数はそんなに変動が無いということが分かります。1985 年から 1994 年の 10 年間に設立された事業所の数は前事業所数の 22 % です。5 年区切りで均等に分けられるとすれば 11 % になります。どの設立年度グループにおいても大体 1 割程度の事業所が属していることになります。

これをどう解釈するかですが、要は「いつの時代も新しいことを始める人は一定数いた」ということだと思います。裏を返せば、やれベンチャーだ!新しいことにチャレンジしていくべきだ!という掛け声なんか関係無かったということでしょう。また、いつの時代にもありがちなことだと思いますが、「最近は新しいことに挑戦する風潮が減ってきた!あー情けない」といった類の言説も眉唾ものだとも言えるでしょう。いつの時代も、新しいことを始める人は始めていたし始めない人は始めなかった。単純にそういうことではないでしょうか。

次に、設立年度別に開設事業所数を棒グラフにしてみましょう。

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まず分かることは 2000 年から 2006 年にかけて設立された事業所数が増加していることです。そして、2007 年から 2008 年までにかけて減少に転じ、そして 2009 年に一気に激減しています。

開設事業所数がきっちりと景気の先行指標になっている点が興味深いですね。リーマンショックは 2008 年 9 月に発生したのですが、アンテナ感度の高い人たちは 2007 年頃にはさっさと手仕舞いし始めたということでしょう。それとは逆に 2006 年までの景気動向を見てから 2007 年に事業を始めたところはリーマンショックで酷い目に逢っているのではないでしょうか。ここから得られる教訓は景気の「結果」を見てから行動しちゃ駄目だということでしょう。

さらに、このグラフでは日経平均の推移を被せてありますが、年度ごとの開設事業所数と日経平均の推移は連動しているように見えますね。一層興味深いのは、よくよく見ると、年を追うごとに開設事業所数が増えていってからワンテンポ置いて日経平均が連動しているっぽいという点です。

2000 年から 2009 年までにかけての日経平均と事業所数を同じ年度で組み合わせて相関係数を計算してみると 0.3691 になります。今度は “1年ずらして” 組み合わせた相関係数を計算してみる(つまり N 年の事業所数と N + 1 年の日経平均を組み合わせる)と、0.5356 になります。強い相関とは言えないと思いますが無視できるほどでもないと思います。簡単に言えば、「日経平均と開設事業所数はタイムラグを伴って連動している」ということです。

何故こんなことをしたかと言えば、2010 年以降の事業所数の推移を類推したいからです。現在の最新の調査結果は 2009 年までしかありません。なので、2010 年以降の状況は分からないのです。ですが、日経平均と新規開設事業所数がある程度連動するとなれば予測がつきます。もう答えはおわかりですね。「恐らく、リーマンショック以降、新規開設された事業所数は低迷したままだろう」ということです。

ちなみにですが、人々の「将来に対するバラ色の未来観」が欠けていることが新規事業所数が増えない原因でしょうし、日経平均がイマイチ盛り上がらない原因にもなっていると思います。これはあくまでも私の仮説。少なくとも新規事業所数と日経平均の間には直接的な因果関係は無いと思いますよ。その点は注意してください。

まとめ

以上をまとめてみるとこんな感じになります。

(1) いつの時代にも新しいことを始める人は一定数いた(ただし過去形)
(2) ベンチャービジネスの動向は景気の先行指標
(3) 恐らく、リーマンショック以降、ベンチャービジネスを起こす人の数は低迷したまま

経済成長を考える上でベンチャービジネスに取り組む人が減っているのは大問題ですね。おまけに人口減少の度合いを考えると … 結構、深刻な問題だと思います。