金融立国ニッポンの軌跡

製造業から金融業へ

最近、私は日本の経済のことを考える機会が多いのですが、ここ 10 年から 20 年の間、日本の経済の根底を流れる物語は「製造業から金融業へ」というものだったという気がしてなりません。そして、その大きな物語は現在も継続中なのだと思っています。

これはあくまでも私の仮説に過ぎません。何の根拠もなく、この物語を真に受けるわけにもいかないでしょう。実際に各国の産業構造を数字で確認してみることには大きな意味があると思います。この記事では、そのような地道な検証作業を通じて「金融立国ニッポンの軌跡」という大きな物語の確認を試みていきたいと思います。

世界各国の産業構造の動きを見る

方針として各国別かつ産業分類別の粗付加価値額がどのような挙動を示してきたのかを確認していきます。製造業と金融業に関する指標を使ってマトリックスを作り、その上で各国経済がどのような挙動を示してきたのかを確認します。

データソースとして、この記事では国連の経済統計データを参照します。2005 年度基準のドル換算データを使ってみました。

比較対象とする国は GDP の大きな国々を採用しました。具体的には、アメリカ、中国、日本、ドイツ、フランス、イギリスの間で比較を行っていきます。また、比較する年度としては 2000 年、 2005 年、 2010 年の 3 つのデータを利用しました。

産業の分類として、ISIC(International Standard Industrial Classification) というものがあるようです。入手したデータは、この ISIC によって分類されています。ISIC の詳細に関してはこのページを参照してください。日本における産業分類の国際版と思えば良いのではないでしょうか。

さて、入手した産業別の粗付加価値のデータについては ISIC D(製造業)という分類で値が拾えます。ですが、金融業だけに関しての値の取得ができません。ISIC J-P(その他の経済活動) でひとくくりにされているためです。本来ならば ISIC J(金融仲介業) という分類だけの値が欲しいのですが、この点はやむをえないと思います。ちなみに、ISIC J-P(その他の経済活動) には、金融仲介、不動産、行政・国防、教育、医療、その他サービス、分類不能なもの、が含まれています。

では、実際にグラフを見ていきたいと思います。横軸は全粗付加価値に対する製造業(ISIC D)の粗付加価値の割合であり、縦軸は全粗付加価値に対するその他の経済活動(ISIC J-P)の粗付加価値の割合です。バブルの大きさは全粗付加価値額です。

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まず目につくのは中国の動きでしょう。このグラフからは中国が年々製造業にウェイトを置きながら経済規模を拡大させてきたことが明瞭に理解できます。

また、製造業のウェイトがやや高いグループ(日本、ドイツ)と製造業のウェイトが低いグループ(アメリカ、フランス、イギリス)に分けることができます。いずれの国々もその他経済活動の粗付加価値が大きなウェイトを占めています。

さらに、イギリスが結構なスピードで左側に移動している、つまり製造業のプレゼンスが急速に下がっていることも分かると思います。これまた興味深いです。

ここまでのグラフはバブルが邪魔して見づらい点もあると思います。そこで、各年度についてどのような方向で各国のポジションが推移してきたのかをプロットしてみましょう。こんなグラフになります。(なお、中国もグラフに書いてしまうと見づらくなってしまうので外してあります)

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フランス、イギリスに関しては左上に移動するという方向性がはっきり出ていることが分かると思います。ドイツも 2005 年を基準に見ると同じような傾向がありますね。左上に移動するということは、製造業のウェイトを下げてその他の経済活動のウェイトを上げるということです。各国とも(ドイツは微妙かもしれませんが)製造業からサービス業へという大きなストーリーに沿って進んでいるということでしょう。

アメリカに関してですが、これ、どう解釈すれば良いのでしょうね。私としては何とも解釈が思いつかないです。成熟してしまって、あんまり動かないということでしょうか。良く分かりません。

さて、日本です。日本は他の国とは別の方向性に進んでいることが分かります、つまり真上に向かっているのです。これは製造業を維持しつつ、その他の経済活動を伸ばしているということです。これをどう見るかですが二股戦略とでも言えばいいのでしょうか。あれも欲しい、これも欲しい… 随分欲張りな戦略とでも言えばいいのでしょうか。良く言えば、ポートフォリオをきちんと組めている国ニッポン。悪く言えば、選択と集中という戦略を真っ向から否定する国ニッポン。それでいて、なんとか持ちこたえている点が何とも凄いです。

ここまでのまとめ

まとめるとこんな感じになります。

(1)中国は製造業にウェイトを置いて経済規模を拡大してきた
(2)欧米諸国(特にフランス、イギリス)は製造業からサービス業へという流れがある
(3)日本は製造業を維持しつつ、サービス業も強化している

残された課題・問題点

ここまでのお話で「金融立国ニッポンの軌跡」という物語に納得感がありますでしょうか?自分で言うのもナニですが、少しパンチが弱いことは否めません。

最大の問題点はこの調査だけでは金融業の実態がつかめない点です。縦軸の指標がうまく金融業の実態を反映していないのです。この記事の本来の狙いは「製造業から金融業へ」という物語の確認です。しかし、このリサーチでは「製造業から(広い意味での)サービス業へ」という物語の確認にしかなりません。金融業=サービス業という図式が成り立つならば問題無いのですが、実際には ISIC J-P という分類があまりにも広すぎます。行政・国防まで含められているんだもんなぁ… これがあまりにも痛すぎる。このままでは「製造業から金融業へ」という物語の説明としては、あまりにもパンチ不足だと認めざるを得ません。

こう書いておきながら、縦軸の指標を変えたらいいのかなぁとぼんやりとしたアイデアが浮かびました。ですが、どんな指標を使えばいいものか…具体的な案はまだ思いつきません。

あと、もう少し過去に遡って観察することも重要かもしれませんね。

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