企業情報システム担当者の心象風景から見えてくるもの

IT投資効果の謎

IT、特に企業内情報システムの仕事に携わる人ならば誰しも IT 投資効果について関心があると思います。この領域は極めてミステリアスな領域です。本当は誰も IT 投資に効果があるかどうかなんて分からないのだと思います(あ、言っちゃった?)。ですが、投資評価ができなければ投資なんてお話になりません。なので、否応なく IT の投資効果について関心を持たざるをえないのです。

IT 投資は実際どの程度の投資効果があるものなのでしょうか?難題ではありますが少し調べてみましょう。

IT 投資に関するサーベイを参照する

まず、IT に関するサーベイを洗ってみましょう。すると、経済産業省が情報処理実態調査というサーベイを実施していることが分かります。今回はこの中から使えそうな調査結果を参照してみます。この中に「IT 投資効果の状況」という調査結果があります。これは質問票(アンケート)で IT 投資に効果がどの程度あったかを企業に尋ねたものです。その調査結果を図示してみると次のようになります。

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平成 22 年度のサーベイ結果の数字を挙げておきます。母数としての回答数は 1715 件でした。そのうち「(IT投資によって)業務革新、業務効率化につながった」とする回答は 1538 件(89.7%)、「(IT投資によって)従業員の満足度向上や職場の活性化につながった」とする回答は 1124 件(65.5%)、「(IT投資によって)売上又は収益改善につながった」とする回答は 919 件(53.6%)、「(IT投資によって)顧客満足度の向上、新規顧客の開拓につながった」とする回答は 839 件(48.9%) となっています。この比率は年度ごとでそれほど差はありません。

さて、これをどう読んでいくか…

まず注意するべき点は、このサーベイが質問票調査であるという点です。この調査結果は標本抽出した企業に対して質問票を送付して得た回答をまとめた結果です。したがって、この調査に誰が答えたかを考えてみる必要があります。

この調査結果には回答者の肩書等は集計されていません。そこで、これは勝手な推測になってしまいますが、恐らく回答者は企業内の情報システム責任者だと推測されます。しかも、たらいまわしにされて、その部下の方が回答している可能性がかなり濃厚です。

また、質問項目の作り方にも問題があります。情報システム畑の人に、あなたの仕事によって「売上は上がりましたか?」「従業員の方は満足されましたか?」「業務革新できましたか?」「お客さんは満足されましたか?」と尋ねているわけです。こんな質問の仕方で信頼性のある答えが返ってくると考えられるでしょうか。

結局、この調査は何を表しているのでしょう。何の指標になっているのでしょうか。恐らく、この結果で分かることは情報システム畑の人の心象風景なのだと私は思います。情報システム畑の人がどのような世界観で仕事をしているか、あるいは情報システム畑の人の自分自身の仕事に対する自己評価はどのようなものか、といったものを表している。決して、IT 投資効果の程度を表す指標にはなりえない … そうならば?

最初の問題設定に興味をもたれた方には大変申し訳ありませんが、問題に対する解決アプローチが間違っていたということです。この調査結果を見ても、IT 投資の効果なんて分かりっこない…。

ですが、この調査結果が企業情報システムに携わる人たちの心象風景を表しているとするならば、それはそれで興味深いことが分かってきます。

企業情報システムに携わる人々の心象風景から見えてくるもの

まず興味深いのは回答結果の順位です。業務>従業員>収益>顧客の順になっています。この順番を情シスな人たちの価値順序だと見なすのは私の肌感覚とも一致します。情シスな人たちはこの順番に価値観を置いていると言われると私ならば非常に納得感があります。

「業務」が一番最初に来るというのは面白いですね。実際、たいていの企業情報システムの仕事をしている人たちは “業務” という言葉が大好きです。業務革新とかビジネスプロセスとか、そういう言葉を好んで使います。それから “上流” という言葉も好きですね。みなさん好んで使う。でも、本当は経営って「収益」なんですね。その辺りのことがまだまだ理解されていないのかなと、この調査結果を見ていると悲しくなります。

また、「顧客」というファクターが一番低いという点も興味深いです。IT 投資で一番効果が出ていない部分は「顧客」だ、と多くの情シスの人が考えているということです。大多数の企業であれば因果の流れは「顧客」→「収益」になります。ならば「顧客」に関するポイントが低ければ「収益」というファクターのポイントが上がるわけがありません。そう考えれば、この調査結果のインプリケーションは物凄いものになります。「顧客」に関する IT 投資の効果が低いと(IT担当者が)考えているとするならば、早急にこの部分に手を打たないといけない、ということだからです。

最後に、この順番が企業情報システムを担当する人たちが影響を及ぼせる強さと相似形になっている点も重要だと思います。彼らが一番影響力を行使できるのは「業務」の部分です。実際、この部分は改善できたと彼らは考えているわけです。それは素晴らしいことです。ですが残念ながら、この結果が暗示しているのは「業務」に影響を及ぼしても「収益」や「顧客」に対する影響力が減殺されているということです。さらに言えば、「業務」から「収益」「顧客」に波及する因果関係のパスが確立されていない(あるいは弱い)ということです。ここには非常に大きな問題が眠っていると私は思います。