日本はケインズ政策を続けてきたか?

不思議な記事

某サイトでニュースを読んでいると実に不思議な記事に出会いました。その記事によると「日本は延々とケインズ政策を続けてきたが全く効果が無かった」そうです。いやいや、日本では公共投資が不人気でケインズ政策なんてやっていないだろう?と思うのですが…。その記事は海外の記事を翻訳したものです。外国人なら日本の事情に通じていなくて当たり前でしょうが、それを翻訳して公表してしまうのも如何なものかと思います。

丁度良い機会ですので政府の支出がどのように推移しているのかを調べることにしました。

実際、政府支出はどのような挙動を示してきたのでしょうか?

伸びない政府支出

この手の調べ物をするときは内閣府が公表している GDP の数字が役に立ちます。その中から、国内需要に関する数字を参照してみましょう。

BL201205-43-01.png

上図は国内需要の推移とその内訳を表したものです。このうち、公的需要となっている部分が政府の支出分に相当します。全然増えていません。棒グラフでは変化の度合いが分かりにくいので、1990 年の公的需要を 1.0 として、その後どの程度まで政府支出が変化したかを折れ線グラフで表してみました。確かに 1995 年頃までは公的需要(=政府支出)は増加していますが、その後は停滞していますね。停滞どころか、2000 年代に入るとじりじりと低下しています。

また、公的需要の内訳も見てみましょう。本当は、「公的需要=政府最終支出+公的固定資本形成+在庫」なのですが、在庫は余りにも少なく、マイナスになるケースもあったのでここでは除外しています。グラフにすると下図のようになります。

BL201205-43-02.png

この図から分かることは政府の「消費」は増えているが、政府の「投資」は減っているということです。端的に言うと公共事業を減らしたということでしょう。そのトレンドは、やはり、1995 年頃から始まっています。

これだけを見ても明らかだと思いますが、日本はケインズ政策なんて全然やっていません。

政府は何にお金を使っているか?

もう少し踏み込んで、政府がどのような分野にお金を使っているかを調べてみましょう。統計資料では「政府最終支出」と「公的固定資本形成」ごとに費目別の内訳が公表されています。ここでは、両者を合算した値をグラフにしてみたいと思います。

BL201205-43-03.png

なるほど、政府は「保健」「経済業務」「教育」を中心としてお金を使っていると言えそうですね。あと、「環境保護」「一般公共サービス」と続いていきます。

また、政府支出の中でも、特に「保健」に関する支出が年々増えていることがわかります。現在、野田首相が「税と社会保障の一体改革」を叫んでおられますが、その根拠はこのあたりに求められるのでしょう。社会保障の負担が大きくなる、だから増税だ、と。ですが、私としては、この「だから」の部分が良く分からない。何故、増税というオチになるのかが分かりません。話が長くなるので、ここではこれ以上書きませんが、私は現在の状況下での増税には反対です(状況が変わればOK)。

閑話休題。政府の支出が一定であるにもかかわらず、「保健」分野の比率が伸びているということは、そのとばっちりを受けている分野があります。その主なものは「経済業務」でしょう。下図に絶対額ベースでの政府支出の推移をグラフにしてみました。

BL201205-43-04.png

「保健」に対する支出は右肩上がりになっていますが「経済業務」に対する支出は削られていますね。経済活動に対するテコ入れ分を削って「保健」に回しているという図式でしょう。「教育」はそれほど削られているようには見えません。面白いのは「環境保護」ですね。金額はそれほど大きくありませんが、政府支出がじわじわと削り取られています。

ケインズ政策なき日本の政府

このように、どこをどう見回しても日本がケインズ政策を続けてきたなんて言えたものではありません。むしろ話は逆です。日本にはケインズ政策なんて不在だったのです。

こういう風に話が流れてくると、じゃぁ日本はケインズ政策不在で果たして良いのかどうか、というお話になってきます。ただ、こっちに行くと話が長くなってしまいます。また、この記事の主題からも外れていきます。このあたりについては機会を改めて記事を書いてみたいと思います。