IT 技術者は誰と競争しているのか?

100 倍の生産性?それは誰と比べて?

しばしば IT 技術者は人によって 100 倍の生産性の違いがあると言われます。このお話を聞くたびに私はウンザリしてしまいます。

もちろん、人によってスキルに差があるのは当然です。デキる人もいるしデキない人もいます。それは仕方のないことだと思います。とは言え、コンピュータ相手の仕事は適性にかなり左右されるというのは事実だと私は思います。向かない人はとことん向かない。逆に要領をつかんだ人はサクサクとスキルを伸ばしていけます。

確かに人によって生産性に違いはあります。ですが、その点はさほど大きな問題ではありません。別に 10 倍の個人差でも問題ありません、100 倍だっていいです。もっと言って、1000 倍、10000倍 の差があっても全然構いません。

そんなものは問題の本質ではありません。問題は誰と比較するかです。すなわち、IT 技術者が誰と競争しているのかが一番大きな問題なのです。

産業構造から見る競争の本質

ITサービスを販売する人がいれば、その対極には IT サービスを購入する人がいます。その両者のお金の流れを追いかけることが大切です。下図は IT サービス販売側と IT サービス購買側の損益計算書を簡略化して示したものです。

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ここで描き出しておきたいのは企業活動の姿です。物凄く簡略化して言えば、企業活動というのは、原材料を買ってきて、生産設備(資本投資)と人材(労働力)を活用して製品やサービスを作り、それを外部に販売するという営みです。そして、できるだけ多くの利潤を獲得しようとする営みです。

ここで重要な点は、生産設備(資本投資)と人材(労働力)は代替的な関係にあるということです。企業の観点からすれば、生産設備を導入するより人に仕事をしてもらった方が効率が良いのならば、わざわざ生産設備を導入しません。人にその仕事をやってもらいます。逆に、生産設備の効率が人よりも高い場合には生産設備を積極的に導入しようとします。

ある企業の生産設備の購入は、別の側面から見れば、別の企業の生産設備の販売に相当します。そうして、生産設備を販売した企業の側も同じように原材料、資本投資、労働力の購入を行っているのです。

さて、以上のカラクリのもとで図を良く見てください。IT サービス購買側の企業は、資本投資と労働力の購入に関して最適な配分をしようとします。IT サービスを購入するよりも人に仕事をしてもらった方が得だと企業が判断すれば、IT サービス購買側は労働力を購入する。つまり、営業、生産、経理等々の現場業務を回してくれる人材にお給料を支払うわけです。

IT サービス購買側の資本投資は IT サービス販売側の売上に相当します。ここでは、IT サービス販売側の費用構造として原材料や資本投資を記載していますが、実質的には殆どが労働力です。IT サービス販売側の労働力って何ですか? IT 技術者ですよね。

以上のカラクリは何を意味するでしょうか?よくよく考えてみてください。IT 技術者が頑張って作った IT サービス(もっとベタに言うと情報システム)は、巡り巡ってユーザ側企業の従業員が提供する労働力と競争しているのです。IT サービスが売れるということは、その IT サービスがユーザ企業の従業員の人たちよりも「役に立つ」から売れるのですね。

IT 技術者の競争相手は同じ業界の技術者なんかではありません。IT 技術者の競争相手はユーザ側の営業や経理や人事の人たちなのです。

100 倍の生産性と 100 分の 1 の市場価値

読者の皆様はもうおわかりだと思います。同業種の技術者と能力の比較なんてしても意味がないのです。もういい加減に「使えねぇ技術者が一杯いて困っちゃうんだよねー。技術者は馬鹿ばっかりだし、おまけにプロマネも無能でどうしようもないね」式のボヤキはやめましょう。それは見苦しいばかりではなく、何の意味もありません。

同業の人と比べて 100 倍の生産性があっても自慢にも何にもなりません。たとえ、それだけの違いがあるとしても、ユーザ側の従業員の方々の 100 分の 1 の価値しかないサービスしか提供できていないとすれば、それは全く意味がないことなのです。

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