書評 / 加藤久和「世代間格差-人口減少社会を問いなおす」

フレッシュマンが減った?

オフィス街を歩いているフレッシュマンっぽい人がめっきり少なくなった。そんなことを感じたことはないでしょうか?

これは注意して観察しないと気づかないことだと思います。私の場合は、ある時に意識的にそういう見方をしてみたことがあります。そして、あくまでも私の体感ですが、やっぱり少なくなったのかなという印象を持って自分でも驚いたことを覚えています。

読者の皆様も一度そのような見方を試してみてはいかがでしょうか?

そして、確かにフレッシュマンが減ったと感じるのであれば、この本を読んでみる価値があると思います。

若者という社会的弱者

また、このような思考実験をしてみることにも価値があると思います。「実は今や若者こそが社会的弱者なのではないか?」という思考実験です。

社会通念上、若い人というのは強者のイメージで語られることが多いと思います。私もついついそういう発想で物事を眺めていました。ですが、昨今の若年層の失業率の高さについての新聞記事などを読むにつけ、何か妙だなと感じないでしょうか?今は少子高齢化です。つまり若い人の絶対数が減っている。そんな中で若い人が就職に苦労しているのです。

読者の皆様の中にも 1990 年代後半の就職氷河期で苦しんだ方がおられると思います。あの時期は新卒世代が今と比べて格段に多かった時代です。そんな中で就職先が見つからなかった。明らかに供給超過だったわけです。ですが、昨今の若い人の状況はそれとは異なります。供給量が減っている中で就職先が見つからないのです。1990 年代後半の就職氷河期とは質が違うのです。

「実は若者こそが社会的弱者?」という疑いの目で世相を眺めてみることは意義のあることだと思います。

世代間格差を知るための 1 冊

本書は世代間格差の問題を様々なデータを駆使して分析してみせた本です。主として社会保障制度(年金, 医療)の問題と雇用に関する問題にフォーカスを当てて現今の世代間格差の実態を描写しています。また、分析の結果をもとに政策提言にまで踏み込んで議論が進められています。

世代間格差の問題を扱った本はまだまだ少ないと思います。本書は比較的出版時期も新しく、かつデータが豊富で客観性に富んでいます。そのため、本書は議論のスタートラインとして好適でしょう。

世代間格差の問題はまだまだ未解決な領域が多々ある問題です。そもそも、問題として認識されているかどうかすら怪しいものです。まず、事実として何が起こっているのかを認識することが必要でしょう。本書はベースとなる知識を獲得するために役に立つと思います。

レレバンス・ロスト

ちなみに、「日本の様々な制度が少子高齢化という社会構造とミスマッチを起こしている」とする著者の主張は妥当であると私には思えます。現行の日本では、将来にわたって人口が増え、かつ所得も増えることを前提とした各種システムがまだまだ残っている。それは制度疲労以外の何物でもありません。また、経済成長を目指すことで問題の根本的な解決につながるという点も完全に同意します。

かつて、管理会計の世界ではレレバンス・ロストということが叫ばれました。日本語では「適合性喪失」と訳されています。急速に変化する経営環境に対して、当時の管理会計システムが適合性を喪失してしまった状態が問題とされたのです。そして、適合性を回復するような各種の手法が考案されました。管理会計は今も企業の中で活用されています。

日本の各種制度、それはレレバンス・ロストを起こしているのではないでしょうか?

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