野村HDの株主提案とエージェンシー問題

野村HDの株主提案は笑い話か?

野村HDの株主総会に向けての株主提案が話題を集めています。例えば、このような記事があります。

野村社員よ「しゃがみ込め」 株主が仰天の提案[ウォール・ストリート・ジャーナル日本版:2012/06/01]

何やら、「商号を「野菜ホールディングス」に変更する提案」だとか「社内のトイレを全て和式にする提案」だとかがあるようです。今の危機的状況を和式トイレで「ふんばって」乗り越えるべきだ、ということのようです。

各所の反応を見ていると、かなりの反響があるようです。普通に考えれば「面白い」とか「凄い」で終わってしまうのかもしれません。ですが、このお話を笑い話で済ませていいのでしょうか?

株価低迷下での野村HD経営陣の報酬額 UP

野村HDに関しては他にもこんな話題があります。野村HDの経営陣に対する報酬が大幅に UP したとのことです。

野村の役員報酬、9億6500万円 12年3月期[日本経済新聞:2012/06/01]

この記事を読む限り、1人当たりの平均報酬は対前年に比べて 79% も増加したとのことです。そして、その役員報酬の総額は 9億6500万円に上るとのことです。

今回、このような話が出てきて、私も野村HDの株価を調べてみたのですが少々驚きました。かなり同社の株価状況が芳しくないものになっているのですね。

BL201206-02-01.png

上図は野村HDの株価の推移です。リーマンショック以前は 2008/04 時点で 1808 円の株価がついていました(もっと過去に遡れば、さらに高値がついていた時期もあります)。それが、リーマンショック以降、坂道を転げるようにして株価は下落していきます。直近で言えば、 2012/06 時点で 252 円程度まで株価が下がってしまいました。野村HDの 2012/03 期の決算では最終損益が対前年比で 60% ほど低下しています。

事実関係を整理しましょう。野村HDについては、業績悪化による株価低迷という状況の最中で経営者報酬が大幅に増加しているのです。

エージェンシー問題としての今回の事象

業績と株価が落ち込んでいるにもかかわらず役員報酬を増加させるという経営者の行為は、客観的に見て、機会主義的行動であると考えられても仕方の無いものでしょう。機会主義的行動とは、本来であれば株主の利益に忠実に行動することが期待されるはずの経営者が、株主の利益に反して自己の利益を最大にするような振る舞いをすることです。

依頼人(プリンシパル)と代理人(エージェント)はお互いに利益が相反する場合があります。ある人が他の誰かに仕事を頼んでも、頼まれた方は頼んだ側の望んだ結果をもたらすように行動するとは限りません。そこで、頼んだ方は何とかして望んだ結果がでるように頼まれた側の行動を制御する必要があります。このような問題のことをエージェンシー問題といいます。株主と経営者の関係は、まさにプリンシパルとエージェントの関係にあたります。そして、機会主義的行動はエージェンシー問題の典型的な現象です。

本来であれば利害相反するプリンシパルとエージェントが協力関係を築ける場合があります。話が長くなるので結論だけを言いますが、ゲーム理論の観点からヒントを貰えば、プリンシパルとエージェントが末永くお付き合いする関係にあればあるほど両者の協力関係が成り立つ可能性が高まります。逆に言えば、お互いが「この先この人とは長い付き合いにはならないだろうな」と考える時にエージェンシー問題は露骨に立ち現われてきます。

物凄く卑俗な事を言えば、めったに行かないようなお店の店員さんに対する時と普段接する会社の上司や部下とでは付き合い方が変わってきますよね?簡単に言えば、そういうことです。

さて、野村HDの場合です。

野村HDの経営者は業績低迷+株価低迷にもかかわらず経営者報酬を増加させるという機会主義的行動を取りました。それは何故でしょうか。先ほどの理論背景をベースにすれば、野村HDの経営陣自身が「この先長くない」と感じているからではないかと推察できます。また、株主側もそんなことは承知なわけです。したがって、経営者の機会主義的行動を抑制するような措置を取ろうとする。今回の事象は、結局こういうことではないかと考えられます。

確かに今回の株主提案は随分と「おちゃらけたもの」になっている感は否めません。ですが、とにもかくにも「株主としての声」が出てきたということが重要なような気がします。それがどのような形であれ、エージェントの機会主義的行動をどうにかしようというプリンシパル側の行為であることに変わりはないでしょう。

今回の野村 HD の一連の流れの背景にエージェンシー問題があるとするならば、今後もいろいろと「事件」が起こるのではないかなと私は思います。

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