ユーロ崩壊を望む英国の本音

欧州の銀行同盟

欧州で銀行同盟の話が盛り上がっています。これは先週末のスペインの銀行に対する 10 兆円規模の救済策がまとまった話の裏側で起きていたことです。ソースとしては、このあたりになるでしょうか。

米国、欧州に「銀行同盟」要求 監督一元化狙いも足並みそろわず[MSN産経ニュース : 2012/06/14]
ユーロ圏の「銀行同盟」創設、「財政同盟」の適切な支えが前提=独連銀副総裁[ロイター : 2012/06/12]

銀行同盟というのは、結局、預金保険に関して欧州域内でアライアンスを組むということのようです。すなわち、欧州内の銀行が破綻した時に、預金者保護を欧州各国の銀行が分担して行っていきましょうということのようです。

ちなみに、日本では「銀行同盟」と言われていますが、元の単語は “banking union” とされています。通貨統合というのは “currency union” または “monetary union”です。そして、財政統合は “fiscal union” と表記されます。

結局、欧州統合のストーリーは “union” という単語で貫かれています。そして、「銀行同盟」というのは「通貨統合」という不安定な状態から抜け出して「財政統合」をする前の一里塚として位置づけられます。国家レベルの統合なんて難しいのは分かり切っているのだから、民間の銀行だけでもとっとと統合しちゃえば?という話と解釈してよいのではないでしょうか。

嫌がるドイツ

毎度のことながら、この銀行同盟に対してドイツは抵抗しています。

Berlin mise sur l’union politique pour sortir de la crise de la zone euro (ユーロ圏が危機から脱するためには政治的な統合が必要とベルリン)[Le Monde : 2012/06/14]

ドイツの立場は一貫しています。ドイツが言いたいのはこういうことです。「あなた方は借金で自滅したのに、まだ借金するつもりですか?」と。ドイツはさらに続けます。「もういい加減にお互い猜疑心の塊になるのはやめましょう。どうやって人の財布からお金を掠め取るかを考えるのはやめましょう。そうではなくて、お互いに信頼に基づく政治的な共同戦線を張るべきではないですか」と。

こういう話を聞いていると、やっぱりドイツ人と日本人は似ているのかなと感じます。一生懸命働いて、生活を切り詰めてお金も貯めて、ドイツは今の地位を築いてきたわけです。ドイツも日本も質素倹約を旨として何とかやってきたわけですね。涙ぐましいまでに我慢強い人たちです。

そんなドイツがふと横を見ると、自分たちの貯金からお金を借りて昼間から酒飲んで遊んでいる南欧の人たちがいるわけです。案の定、そういう人たちは破綻しました。そして、破綻したにもかかわらず、それでもなお、彼らはお金を貸してくれと言う。「破綻しましたが、何とかお金を貸してもらえませんか?」だったらまだ分かる。実際はもっと酷い話で「破綻したからこそ金を貸せ」なのかもしれません。そこでドイツはブチ切れるわけです。「お前ら、俺を見習って働け!」と。

日本人の私としてはドイツに憐れみを感じます。同病相憐れむというやつです。ドイツさん、あんたは既にまな板の上の鯉なんですよ、と。おとなしく欧州の ATM の地位を引き受けるしかないんだよ、と。その一方で、ドイツがここで一発カマしてくれると、日本人の私としては痛快だなと感じなくもありません。

ドイツとしては、この銀行同盟なるものを歓迎するはずがありません。ドイツから見れば、自分たちのお金を民間銀行という抜け道を通って他の国が掠め取るだけの仕組みとしか感じられません。そんなもの絶対反対だ!というわけです。

欧州分裂を腹の底で望むイギリス

銀行同盟については、ドイツ vs 欧州その他の銀行という図式に止まるものではありません。ここにきて、意外なプレイヤーが徹底抗戦の構えを見せてきました。イギリスです。

英国内にEU脱退論、「銀行同盟」構想に反発[YOMIURI ONLINE : 2012/06/10]
Londres souhaite mais redoute une union bancaire européenne (ロンドンにとって欧州銀行同盟は望ましくも恐ろしい)[Les Echos : 2012/10/06]
Britain announces emergency measures to insulate financial system from euro crisis (イギリスは自国の金融システムをユーロ危機から保護するために緊急措置を取ると発表)[The Washington Post : 2012/06/15

欧州の銀行同盟は、ある一面においてイギリスの利益になります。欧州全体の金融システムが安定化することは不況に苦しむイギリスにとって悪い話ではありません。しかし、その薬はイギリスの虎の子産業である金融業=シティにとって大きな不利益になります。イギリスにとって、欧州の銀行同盟は、あまりにも副作用の大きすぎる劇薬なのです。そこで、イギリスは実力行使も辞さない構えを見せているのです。

このあたりにイギリスの本音が表れていると私は思います。結局、イギリスは最初から欧州の結束なんて望んでいなかったのです。欧州全体が EU としてまとまりつつある中、表向きは「いい話ですね」と言っておきながら腹の底では「どうせお前ら喧嘩するんだろ?」と思っていた。結局、イギリスは通貨同盟としてのユーロには参加せず、いまだに自国通貨のポンドを使っています。そして、いよいよ通貨統合の次のステップをどうしようかという話に対しては断固反対してきたわけです。むしろ、イギリスは今回の欧州危機について「ざまーみろ!」としか思っていないのかもしれません。土台無理なんだから諦めてとっとと分裂しろ、と。

フランス、ドイツあたりの猫の首に誰がどう鈴を付けるかで常に悩む欧州大陸。そして、我関せずで、欧州大陸のゴタゴタを高みの見物しようと決め込むイギリス。

欧州なんて 100 年前の図式から一歩も成長していないのかもしれません。