「怒れる若者」が日本を席巻する日

この国の問題

私は今まで経済の問題を考えてきました。日本の経済を復活させるにはどうすればよいかが大きな問題だと思っていました。日本の経済的な凪状態で多くの人が困っている、だから、経済を立て直さないといけないと思っていたのです。ですが、最近、少し考え方が変わってきました。正確に言うと、話の前提条件を疑う作業を試しているのです。

誰でも知っていることですが、日本は少子高齢化の問題を抱えています。誰がどう見ても、日本の人口は高齢者の比率を高めながら減少していきます。これは多くの人が認識していることであり、誰も異論はないでしょう。

少子高齢化という社会構造は、政府支出のあり方も変化させてきました。何度も再掲になりますが、政府支出の内訳推移を下のグラフで示しておきます。

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今や政府支出の中心は保健に関するものです。これはまさに少子高齢化という社会構造の映し鏡になっていると考えてよいでしょう。それと同時に、将来の果実を得るための経済活動については政府の支出が年々削られています。

結局、今の日本の問題というのは保健であり福祉の問題です。決して経済の問題は中心的な課題ではありません。このように考えるのが妥当なのではないかと最近の私は考えつつあります。つまり、「経済から福祉へ」という地殻変動が日本で起こっているのではないか、ということです。

経済から福祉へ

経済から福祉へという図式で世相を眺めてみると、色々と面白い発想ができるようになります。もっとも、面白いというのは「知的に=頭で考えただけで」面白いというだけで、私を含めて、当の利害関係者にとってみれば堪ったものではないのですが…。

まず、経済成長をしようと思えば実は簡単なのではないかと勘繰ることができます。日本の経済を復活させるための処方箋を、多くの方々が提示しておられます。実はこれら全部びっくりするぐらいの効き目があるんじゃないか?と考えてみることができます。

ある人は財政出動しろといいます。政府が公共投資でもなんでもいいから、とにかく意味のあるお買い物をすればいいんだ!ということですね。そうすれば、社会全体の有効需要に下駄を履かせることができるので、結果的に経済成長の流れを作り出すことができるのだといいます。

また別の人は金融緩和しろとご高説を垂れます。資金という弾を渡してあげれば、民間企業だって今でも十分戦えるんだという話です。そもそも、人々のお財布にお金が入っていない状態では物なんて買えないし、ましてや投資なんて進むわけではないでしょう、と。キャッシュという武器を市場に供給することが最重要なのだ、というわけです。

それから人口問題を真正面から解決する方法もあります。移民の受け入れを本気で考えろという人もいます。人が増えれば住むところも食べるものも必要になります。需要とはそういうことです。その需要を目がけて供給が増え、より良いサービスが世にあまねく広まっていく。経済成長とはそういうことです。

その一方で、人口の頭数の問題ではないという人もいます。人の数ではなく人の質が問題なのだ、とその人たちは言います。つまり、とにかくイノベーションさえ起こし続ければ経済の問題は何とかなるのだという立場ですね。この解決策を考える場合は教育が重要になることでしょう。

これらの経済復活の処方箋のうちからどれを選ぶかは実は大きな問題ではないのかもしれません。実はどれもこれも同じように効果があるのかもしれません。しかも、効果テキメン。どの政策を行ってもびっくりするぐらいの成果が上がる、しかも 100 % の確率で成功する。実はそういうことなのかもしれません。

では、そもそも何故、そもそも処方箋を受け入れないのかという疑問が出てきます。その答は簡単です。根本的に経済が問題ではないからです。

「経済なんてどうでもいい、問題は福祉なんだよ」、このフレームの下では、経済復活の処方箋はもはや薬ではなく毒でしかありません。そうなれば、だれも経済成長の話なんかには耳を傾けなくなっても当然です。むしろ、今まで頑張って稼ぎ貯めた果実を如何に目減りさせずに分配させるかが最重要課題になります。

結局、今の日本の経済成長は能力の問題ではなく意志の問題なのかもしれません。

一点だけ補足しておきますが、以上の話はあくまでも仮説ですし、私の本意でもありません。むしろ逆です。たとえ福祉が問題であったとしても経済成長は常に考えなければならないと私は思います。

「怒れる若者」が日本に現れる日

うがった物の見方をすれば、こういうことなのかもしれません。すなわち、経済を問題とするのは若い世代で、福祉を問題とするのは高齢者の世代だということです。経済を考えるというのは、将来の価値を目指して、現在においてどのような資源配分をするかの問題です。一方、福祉の問題というのは、将来よりも、まさに今目の前にあるパイの分配を問題にすることです。そして、後者の問題にばかり日本はかまけている。

ところが不思議なことに、日本の中では、自分自身の死活問題であるはずの経済問題について、特に 20 代の若い人たちが怒りの声を上げているようには見えません。世界中どこを見回しても、貧乏くじを引かされた若い世代は怒り狂っています。アメリカでは “We are the 99 %!” と言って怒っています。欧州だって同様で、若い人がデモ行進に参加している。最近ではモスクワでもデモ行進が行われました。とにかく、世界中の若い人は怒っている。

日本の若年層は何故怒らないのだろう?これもあくまでも仮説ですが、日本の若い人には、まだまだ海外という逃げ道が残されているのかもしれません。日本に絶望して海外に脱出しようとする日本人は増えていると思います。それは合理的な行動だと私は思います。そして、海外で頑張って仕事をしている日本人は今でも多数いるのだと思います。日本国内で怒りの声を上げるより、とっとと海外脱出した方がいいじゃん、ということです。

そうすると、怖いのは、海外への逃げ道が断たれてしまった時です。今、海外で羽振りの良い生活をしていても、海外の経済事情がそれを許さなくなり、多くの日本人が国内に回帰する日。そして、その姿を見て、海外脱出という希望が打ち砕かれ、日本に止まらざるを得ないことに絶望する若い人たち。こういう図式が出来上がるのが一番恐ろしいということになります。何故なら、海外への逃げ道が無くなれば、日本国内で怒りの声を上げざるを得なくなるからです。

海外という逃げ道が無くなってフロンティアが失われた時、その時に初めて「怒れる若者」が日本に現れてくるのかもしれません。