MS 製タブレット Surface は業務用途の Windows を守れるか?

Microsoft が自社タブレットを発表

何やら Microsoft が自社タブレットを発表した様子です。Sufrace という名前の製品です。とりあえず、ニュースソースはこのあたりになります。

マイクロソフト、「Surface」タブレットを発表[CNET Japane : 2012/06/19]

発表会で実際に触ってみたインプレッションはこのあたりに書かれています、英語ですが…。

Hands-On With The Microsoft Surface, Inside And Out[TechCrunch : 2012/06/18]

それから、Microsoft の製品紹介ページはこちらになります。

Surface by Microsoft

記事を読んでいる限り、この製品の完成度はかなり高い様子です。一説には Apple の iPad と互角に張り合えるのではないかという噂もあります。バッテリの持続時間について公式発表が無いようですが、この点でかなり良い数字が出てくると、下手をすれば Microsoft の独走状態になる可能性すらあるかもしれません。

今回の発表については事前に伏せられていたこともあり、相当 Microsoft の気合いが感じられます。また、今回の発表は Microsoft がソフト屋の殻を破ってハードウェアに本気で進出するということでもあります。誤解を恐れずに言えば、これは PC メーカに対する宣戦布告ということです。業界の反響が大きくなるのは必至でしょう。

業務用途 vs コンシューマの戦い

Microsoft が自前でタブレットを作るということは何を意味するのでしょうか?この問いに対しては、「業務用途 vs コンシューマ」という図式を下敷きに理解するのがよいのではないかと思います。

モバイル端末という製品ジャンルが確立されてから随分と年月が経過しました。モバイル端末という製品ジャンルは既に一つの市場を形成しています。この市場を大きく分類してみましょう。大ざっぱに言って、この市場は業務用途とコンシューマ向けに分類できます。業務用途というのはモバイル端末を活用したいと考えている法人向けの市場セグメントです。この市場セグメントで大きな顔をしているのは ノート PC でしょう。業務で使う場合、普通は PC に Windows を載せて仕事をすることが多いはずです。一方、コンシューマ向けというのは一般消費者向けの市場セグメントです。

モバイル端末市場の業務用途の領域では Microsoft がかなりのシェアを握っているはずです。皆さんの職場でもそうなっていると思います。いくら Apple の製品が個人的に好きであっても、仕事では Windows のノート PC が支給されることが多いはずです。もちろん利用者側からは不満が出るかもしれませんが、業務用途でモバイル端末を使うというときは Windows を選択する「判断」が下されるのが普通だと思います。というか、それ以外の選択肢をすると聞くと、私としては「勝負してるなー」とすら思います。

モバイル端末と言えばせいぜいノート PC ぐらいしかなかった時代はこれでもよかったのです。ですが、時代が変わってきて、スマートフォンの時代がやってきました。やってきたというか、これは実に Apple や Android 連合軍 の戦略的な行動の結果だったのです。というのも、彼らは何を考えたかというと、まずモバイル端末市場についてコンシューマ向けの領域から地歩を固めることを考えたのです。その戦略は大当たりしました。ここ数年で、彼らは iPhone や Android スマートフォンを売りまくりました。そして、自分たちのテクノロジーの礎を築くことに成功したのです。

その代り、今やコンシューマ向け領域については市場が飽和状態に近づいてきています。コンシューマ領域に止まる限り、さらなる成長は期待できないのです。そこでコンシューマ領域でシェアを獲得した Apple や Android 連合軍が次の標的として狙っているのがまさに業務領域です。そうして、Apple は iPad を投入しました。そして、Android 連合軍も多数の Android タブレットを市場に投入してきました。彼らは何故このような行動に出るのか?答は簡単です。それしか選択肢がないからです。コンシューマ領域を食いつくした後は業務領域に進出するしか生き残る道が無いからです。そうして、各社ともタブレットを業務領域への橋頭保と位置付けるためにお互いに鎬を削りあっているわけです。

結局、タブレットという製品ジャンルはモバイル端末市場における「業務用途 vs コンシューマ」の決戦場です。

さて、Microsoft はタブレットで負けるわけにはいきません。何故なら、タブレットで Apple や Android 連合軍に敗退してしまえば、自らのドル箱領域=業務用途での地位が本格的に危なくなってくるからです。だから、Microsoft はなりふり構わぬ戦略を取ってきているのでしょう。

これは、今までの Microsoft の勝ちパターンを自ら否定することに他なりません。もう少し詳しく説明しましょう。ソフトウェアとハードウェアはお互いに補完的な関係にあります。いずれか一方だけではビジネスが成り立たないのです。Microsoft は OS を独占しました。その一方でハードウェアメーカーは標準化による激烈な競争を強いられました。Microsoft の勝ちパターンというのは、ソフトとハードで協力してパイ全体を広げながら、パイの分け前を極限まで大きくするという点にあったのです。逆に言えば、Microsoft というのはハードウェアを自ら作る必要性なんて、これっぽっちもなかったのです。Microsoft がハードウェアに進出しても、それは他のハードウェアメーカーの商売敵になって恨まれるだけです。そんなことをしなくてもソフトウェアにおけるガリバー的地位さえ達成できていれば何もする必要はなかったのです。

そんな Microsoft が本気になってタブレットを自前で出すと言いだしたのです。たとえハードウェアメーカを敵に回してでもタブレットだけは守り抜かなければならない、という Microsoft の意志の表れではないかと思います。実は Microsoft は後がないのです。タブレットで負けてしまえば、今まで業務用途で使われていた Windows の地位が本気で危うくなってきます。

タブレット戦争はどうなるか?

さて、ではタブレットを巡る攻防はどういう結末を迎えるでしょうか?そんなことは神様でもない限り分からないでしょう。

ただ、業務用途という領域はコンシューマ向けのビジネスとは少々勝手が違う、ということだけは言えると思います。コンシューマ向けの場合は、まだまだ「目新しい」というだけで売れる側面もあるのではないかと思います。ですが、業務用途となると、そういう理由では顧客の財布の紐を緩めることはできません。どうしても投資収益率が問われます。その投資にはどれだけのメリットがあるのか、と厳しくチェックされるのです。

業務用途のモバイル端末には多額の投資が行われてきました。幸か不幸か、その大多数が Windows 関連製品だと思います。投資意思決定をする人に依ると思いますが、この資産について「ガラガラポン」をする覚悟ができるほどの豪胆な人がどの程度いるのかが私には疑問です。大抵の組織は現状で投資してきた資産を最大限活かすという判断にオチが付くのではないかと思います。その場合、タブレットを本気で導入したいと考えるのならば、Microsoft Surface に軍配を上げる組織がぽろぽろ出てくるのではないかなと私は予想しますが … いかがなものでしょうか。