Microsoft Surface に見る IT の「すり合わせ型」産業化

Microsoft が独自ブランドのタブレットを発表しました。Surface という名前の製品です。この出来事については、Microsoft がパートナーであるハードウェア企業を敵に回すことを覚悟の上での参戦したと見る向きが多いようです。ですが、別の見方をすれば、Microsoft のこの動きは IT 産業の「すり合わせ型」化を意味するのかもしれません。

MOT の世界では「すり合わせ型(インテグラル型)」と「モジュール型」の二つのものづくり類型を想定します。「モジュール型」というのは、構成要素となる部品を細かく分け、お互いのインターフェイスを明確に定義し、個々の構成要素の最適化を図ることで全体の製品を作っていく方式のことを言います。一方の「すり合わせ型」というのは、個々の構成要素間の統合=インテグレーションに重きを置くものづくりの方式です。てんでばらばらな部品の組み合わせではなく、統一感のある全体性を追求するものづくりと言ってもよいでしょう。

この二つの視点で IT 産業を見ていくと面白いことがわかります。そもそも、IT 産業というのは「モジュール型」成功事例の代表格だったのです。1990 年から 2000 年代初頭にかけて PC(パーソナルコンピュータ) は凄まじい勢いで進化しました。その進化の原動力となったのが「モジュール化」だったのです。PC は、ありとあらゆる部品をモジュール化しました。CPU, メモリ, HDD, ビデオカード …。これらの部品に関して徹底的にモジュール化を進めることで激烈な価格低下と品質向上を実現したのです。そうして、PC は世界中を席巻することになりました。

PCの「モジュール型」アプローチとは対照的に、Apple は一貫して「すり合わせ型」アプローチを取ってきました。Apple というのは絶対にハードウェアを公開しないのです。また、ソフトウェアも基本的に公開しません。そもそも、広く公開されたモジュールを組み合わせて製品を作り上げるというやり方をしていないのです。そうではなく、ソフトウェアとハードウェアの両面にわたって、Apple は独自のこだわりを持ち続けました。徹底した「すり合わせ型」志向で自社の製品を作り続けていたのです。
「すり合わせ型」を貫いた Apple は一度倒産しかけた会社です。PC 的な「モジュール型」モデルが勝利を収める中、誰もが Apple を見捨てていました。当時、私も「こりゃ駄目だ」と思っていました。PC の「モジュール型」戦略の攻勢に、Apple 的な「すり合わせ型」の物づくりが敗北しそうになったのです。Apple が倒産寸前の状態にあった時、誰もが「すり合わせ型」は駄目で「モジュール型」が正しいのだと思い込んでいました。

ところが、ここで奇跡が起きました。スティーブ・ジョブズの復帰です。ジョブズは息絶え絶えの Apple を見事に復活させました。その時にも Apple は「すり合わせ型」のものづくりを頑として変えませんでした。Apple は iMac を作り、iBook を作りました。さらに、iPod と iPhone を作りました。そして、とうとう PC という「モジュール型」IT 製品に引導を渡すことになるかもしれない iPad を作りました。Apple は死の淵から甦るだけではなく、「すり合わせ型」のものづくりで IT の世界地図を塗り替えてしまったのです。

結局、言いたいことはこういうことです。IT 産業において「モジュール型」から「すり合わせ型」へのシフトが起きているという歴史認識が重要ではないかということです。そして、今回の Microsoft Surface の発表は、その流れを象徴的に表す出来事だということです。”あの” Microsoft が「すり合わせ型」に転換してきたということですから。

当面、このトレンドは続いていくのではないかと思います。そして、IT 産業に携わる人は「すり合わせ型」という支配的なフレームの下で戦略を練っていかざるをえなくなるのではないかと思います。